今日も仲良しなのです。

プラチナ

 高校に出入りする楽器店の人が持ってきたカタログを手に、その日の涼子と玖里は談義していた。
「やっぱフルートは金よねー。プロも基本、金だし」
「そうですか? 金のキラッキラした音もいいですけど、おれは銀が好きですねえ」
「まあねー、吹きやすいのは銀よねー。楽器屋さんで金を吹かせてもらったことあるけど、息の抵抗がきつくってしんどかったわ」
「ですよねえ、ましてやプラチナなんて誰が買うんでしょうね」
 言いつつ、玖里はぺらりとめくった次のページの、金のフルートの四倍の値段がするそれを指さした。
「高い上に吹きにくいって! プロならともかく、普通は買わないでしょ。私、音出せそうな気がしない」
 仲良くカタログを見ながら、ですねえ、と相槌を打った玖里は、あ、と思い出したように声を上げた。
「なに」
「かっきー先輩なら吹けそうですよ! ぜったい!」
「あ、あり得るー! 肺活量ありそうだし!」
 壺にはまったらしく、涼子は珍しくけたけたと笑い声を上げる。
「なんだ、ご機嫌だな。なんの話してんの、おれも混ぜて?」
 トランペット片手にふらりと寄った晃が声をかけると、涼子はぴたりと笑いを収めた。
「あ、気にしないで。うさみに言ってもわかんない話」
「ちょ、え、くりちゃん?」慌てた晃が水を向けると、
「あ、うん、うさ先輩、気にしないでいいですよ」玖里はにっこりと笑った。
「またか! またなのか!」
 晃は虚しい叫び声を上げた。どうもフルートパート特有の話には、晃は混ぜてもらえないのだ。
 そんな意地悪するとペットパートの話に混ぜてやらんぞ! と言ってみたことはあるが、あんなナルシーと熱血漢のるつぼに混ざりたくない、とばっさりやられた。
 そんなわけで、晃は仲間はずれだ。
 つまりは、今日も通常運転の午後が過ぎてゆくのであった。


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2009 12 12