舞台裏。

アンコールの前に

 舞台が一段落し、オーケストラ部員たちは一時、袖へと引っ込んだ。
「ちょっとマメ柴、なんでフルート二本持ってんの!」
 玖里の手元を見て、涼子は思わず声を鋭くした。薄暗くとも舞台からの明かりで、手元不如意になることはない。玖里が両手に持ったフルートは、光を受けてきらきらと輝いていた。
「あれ、垣内先輩が……いない」
 後ろからひょいとやってきたトランペットパートの晃が、それと気づいて声を上げた。
「ちょっとマメ柴、先輩は!? アンコールどうすんの!」
 涼子の剣幕に玖里は身をすくめ、わかりませんー、と情けない声を上げる。
「なんか、クラスメイトの女の人追っかけて行っちゃったんですよう。おっとりした感じの人、前に一緒にいるの見たことあります」
「あっ、知ってる! なんか一生懸命、人の話聞いてくれる人よね」
「先輩、青春しに行ったのか」
 晃が妙な相槌で頷いたのを潮に、涼子は腹を決めた。
「わかった。アンコールのスタンバイ中に、パーカスの人にさりげなく椅子一個下げてもらうよう頼んでくる。先輩、これはひとつ貸しよ!」
 すたすたと奥に歩いていく涼子の背中を見ながら、これは先輩が帰ってきたらおおいにからかってやらにゃあ、と残された男子二人はにやにや笑いを繰り広げていた。


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novel

2009 12 12