くすぐったいような。

その呼び名は

 結婚しても相変わらず、オーレリアンは弟溺愛っぷりを発揮している。毎日のように実家、もとい城に帰ってしまうのだ。
 まだ新婚なのに。
 ヒースケイドが、王子ジェイディアードを多少疎ましく思ったとしても仕方のないことであろう。
 ストレス解消のため、いつものようにティオを苛めていると、練兵場に少年が現れた。当のジェイディアードである。
「ディド!」
 ティオはしごかれてぼろぼろになりながらも、笑みを浮かべてジェイディアードを迎える。
 こんにちは、と笑顔で答えたジェイディアードは、ヒースケイドを振り仰ぐ。
「見学しても、構いませんか?」
 ええ、とヒースケイドは爽やかに答える。もちろんその雰囲気は演技である。
「ありがとうございます、兄上」
 ジェイディアードはふんわりと微笑んだ。
「……殿下、いま、なんと」
 ヒースケイドは驚いて目を見開いた。一瞬、聞き違いかと思う。
「姉上と結婚したのですから、僕の義兄です。兄上と呼んでも、よいでしょう?」
 齢十一の王子は、くりくりしたまなこでヒースケイドを見つめ、その幼さに見合う笑みを浮かべる。
「……ええ、無論」
 ヒースケイドの胸にほんわりしたものが広がってゆく。なにやら面映い。
「今度、姉上と一緒に会いにいらしてくださいね」
「はい、きっと」
 気持ちを揺り動かされたヒースケイドは、自然とジェイディアードの頭を撫でた。
 麗しい光景だった。
「隊長も陥落したか」というティオの言葉に、ヒースケイドが彼を蹴倒しさえしなければ。


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2006 02 10