姉と弟。

将来のお嫁さん

 その日、オーレリアンは久しぶりに姉弟二人きりの時間を過ごしていた。
 あまり二人の時間を持てないのは結婚して城を出たことも一因ではあるが、会いに来ること自体は頻繁にしている。ただ、夜に会えなくなったことと昼は誰かが同席していることが多いため、姉弟水入らずの時間は意外と取れないのだ。
 庭園にある長椅子に腰かけて、姉弟はのんびり日向ぼっこをしていた。
「さーて、久しぶりに姉様がかまってあげるわよー」
 うふふと語尾に音符が付きそうな上機嫌具合だ。それもそのはず、オーレリアンは弟をかまってやれるのが嬉しくて仕方がない。夫が見ていれば、その情熱の半分もこちらに注いでくれと言うだろう。
「姉上、僕はもう小さな子供ではありませんよ」
 姉の膝に無理やり頭を乗せられ、ジェイディアードはやんわりと意見したが、かといって振りほどきはしなかった。彼は恥ずかしがって拒絶するほど人目を気にする質ではなかったし、プライドを守ろうと頑なになるほど狭量ではなかった。なによりも、姉の好意が嬉しかったのだ。それが王子のいいところでもある。
「ねえ、姉上、姉上は僕が好きだから他国に行きたがらなかったのですよね。ですから臣下に嫁いだ」
「ええ、そうね」
 オーレリアンは静かに答えながら、ゆっくりとジェイディアードの髪を撫でる。
「……姉上、将来僕がお嫁さんをもらうことになってもいいですか? 祝福してくれますか?」
「まあっ、なに可愛いこと言ってるのこの子は! 当たり前じゃない!」
 そう声を上げ、オーレリアンは弟の頭をぎゅっと抱き込んだ。
「ジェイドだって、私の旦那さん選びにひとつも意見しなかったでしょう? 決まってからも一言も文句を言わなかったでしょう? そういうものよ」
 わかった? と問われ、ジェイディアードは頷いて笑みを見せた。
――ああ、そうです姉上、僕、兄上にお願いしたいことがあるんです」
「まあ、なにかしら、言ってごらんなさい?」
 なんだって私が承知させるわ、と言わんばかりにオーレリアンは促した。ジェイディアードは少し恥ずかしそうに口を開く。
「殿下は止めてジェイドと呼んでくださいとお願いしたら、お困りになるでしょうか」
「あら、それは……泣いて喜びそうね」
 そう答えて、オーレリアンはくすくすと笑った。
 彼女の手は、ずっと弟の髪を撫でている。


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2011 10 03