君の名前

「スモモ」
「違うって、すーもーもー」
「ス、モも?」
「うーん」
「なにやってんだ」
 シュラとリキ相手に発音のレクチャーをしていたら、ひょっこりソルトがやってきた。彼は最近は顔パスでこのフロアまでやってくる。さすが若いな、順応力が高いわ。
「私の名前教えてるの」
「名前ぇ?」
「そう、私の国の言葉とちょこーっと発音が違うんだよね」
 発端は、私がそんなことをシュラとリキに吹き込んだことだ。あっちの世界を切り捨ててきた私には、もう私自身しかその名を正しく呼べる人がいない。それが、ちょっと寂しいなとこぼしたらこの有様だ。二人とも、私の呼び名をマスターする! と意気込んでしまった。
 ソルトまで巻き込んで発音お勉強会を繰り広げてみたが、誰も正しく言えなかった。
 シュラとリキは微妙に落ち込んでいたが、遊び心を出したぐらいのつもりだった私は別に気にしていない。ちょっと寂しかったのは嘘じゃないけど、そのために二人が努力してくれたのを見たらすごく幸せになった。
 あとからついでのようにやって来たレイが、ちゃっかり「李」と正しく呼べてしまったのはここだけの話だ。


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