答えが出ないなら。

side Luli

coffee break

 学校帰りに、想ちゃんとばったり会った。彼女とは屋上の一件以来、なにかと意気投合して仲良くしている。
 お茶でも飲もう、ということで喫茶店に行った。
「うう、瑠璃ちゃあん……あたしもうぐちゃぐちゃ。わけわかんない」
 席について注文するなりそう言って、想ちゃんは円テーブルにごつんと頭をつけた。なにか悩みがあるらしい。
「うん、実は私もぐちゃぐちゃ」
 私が答えると、想ちゃんは顔を上げて目を丸くした。
「それって……葛見?」
「想ちゃんこそ、栗原くん?」
 訪れる沈黙によって、お互いの問いが肯定であることを確認する。先に口火を切ったのは想ちゃんだ。
「ちょっとね、距離置こうって言ったんだよ。そしたらいきなり告白されて、でも、あたしはカツキちゃんのこと好きじゃなくてもいいんだって。なんかすっごくひどくない? ずるい。もう泣きたい」
「距離置こう、って言ったの?」
 なんで? そう問うと、想ちゃんは口篭もってぱっと顔を赤らめた。そしてたどたどしく話し始める。
「あの……あのね? こないだね、好きな人と一緒だったんだよ。でもあたしはずっと、なんで隣がカツキちゃんじゃないんだろうって、そればっかり考えてて。それってものすごく依存してるよね。そう思ったらすごく恥ずかしくなって、それで」
 はあっと息を吐いて、想ちゃんは来たばかりのホット・カフェオレをすすった。
「最近は、会ってないわけじゃないんだけど、ちょっとあたしが避けてて。絶対そうじゃないってわかってるのに、嫌われてたらどうしようって」
 会うのが怖い。ぽそりと言った。
「……それって好きなんじゃないの?」
「そうなのかなあ」
 またも訪れる沈黙。
「瑠璃ちゃんは?」話を促す想ちゃん。
「私もちょっと似てるかな。こないだ告白されかけて、それでごめんって言ったの。そしたら、会いに来てくれなくなっちゃって」
「……瑠璃ちゃん、それってしょうがないんじゃ」想ちゃんはちょっと呆れ顔だ。それで、会いたいの? と首を傾げた。
「会いたい、とは思うけど。でもそれって、友達でも一緒じゃない? 急に会わなくなったら寂しいよねぇ」
「そうだねぇ……悩んでるのってそれだけ?」
「実は、それだけじゃないから悩んでるんだけど」
「なになに」
 急に想ちゃんの瞳が輝き出した。やっぱり人の恋路は面白いらしい。
「会いたいんだけど会いたくない。会いたくないけど会いたいし。クラスメイトの男子としゃべってて、無意識にくずみくんと比べてるし、いまだって、こないだは想ちゃんの席にくずみくんが座ってたのになあ、とか。気づいたら考えてる」
「……それって恋なんじゃないの?」
「そうなのかなあ」
 私と想ちゃんはたぶん、自分の気持ちにうとい部類だと思う。ここでぐちゃぐちゃ考えてたって、答えは出ないかもしれない。
 ふたりとも、ふうと息を吐いた。
「会ったら答えが出るかもよ」と私。
「会うかなあ」と想ちゃん。
「会う会う」
 二人でくすくすと笑った。普段、無愛想な人と会話をしている反動か、二人で会うと面白いほど会話が弾む。
 カフェオレ飲んで、ケーキを食べて、元気を出して。
 会いに行こう。


「平行線の終焉」へ
back/ novel