それだけで。

side Katsuki

それでいい

 折りしもテスト期間。想の熱も早々に下がって、ちゃんとテスト開始日に間に合った。
「ちぇ、どうせなら追試で良かったのに。勉強時間減っちゃった」
 そうぼやく想に、俺は笑みを浮かべる。部活もない期間だから、俺と想は一緒に帰途についている。
 今日の想はなんだかそわそわしている。少し緊張しているのかもしれない。前を向いたり上を向いたりちらっと俺を見てみたり、想の視線は忙しない。
 俺は無理に促さず、想が落ち着くまで待つことにした。
「あ、あのね、カツキちゃん」
「うん」
「あたしってさあ、カツキちゃんの迷惑になってるのかな。迷惑だよね。なんか、ごめん、付きまとってるよね」
 なにを言い出すのかと思った。いきなり想がそんな思考に陥ることはないから、諒あたりがなにか吹き込んだのだろう。
「いや、なんで?」
「え、だってさ。あたしみたいなのがついてちゃ、彼女さんができても相手してあげられないじゃん。だからさ、ちょっと距離置くことにしない?」
「なに言ってんだ?」
 俺は焦った。想が誰か俺の代わりをみつけて、納得して俺から離れるならばそれでいい。でもこれは違う。なんで急に俺との関係を変えようとしているのかわからない。
「だって、ただの幼なじみなんだよ? あたし、なんでカツキちゃんがこんなにあたしの相手してくれるのかわからない」
「ただの幼なじみなんかじゃなくて、俺、おまえに本気なんだけど」
「……え」
 言わずにおこうと思ったことがぽろっと口から漏れた。しまった。でもまあ、言っちまったもんは仕方がない。
 思ったとおり、想は目に見えて狼狽した。あ、これは泣きそうなときの顔だ。言わせず、俺は想を制した。
「うん、おまえがなんとも思ってないのは知ってる。だから、気にすんな」
「気にすんな、って。そういうわけにも。あ、あの、カツキちゃん? あたし、なんかじゃなくって、他にもっといい子がいるじゃない?」
「いない」
 間髪入れず答える。
 想は口をぱくぱくさせている。それがおかしくて、俺はちょっと笑った。
「おまえは、なにがあっても絶対、俺の味方でいるだろう?」
「う、うん」
「それでいい。それだけで、俺には充分だから」
 傍にいるだけでいいんだ、想は。


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