あのひとじゃないと。
side Soh
熱を出した。
ぼうっとする頭でふらふらしていると、勝輝ちゃんが保健室に連れていってくれた。布団は柔らかくて、生徒達の喧騒がすごく遠くに聞こえて、あたしは眠くなった。
「眠るまで、いてね」
と言うと、勝輝ちゃんはふっと笑ってあたしの手を握った。
うつらうつら。
ふうっと目が覚めた。とはいっても、あたしはまだ夢と現実の狭間にいる。なんだかまだぼうっとしている。
あたしの手を握っている細くて長い指に気がついて、あたしは一気に覚醒した。
イヤだ。
――勝輝ちゃんじゃない。
「あ、起きた?」
顔を上げると神原さんがいた。例のコンビニのお兄さんだ。といっても実はバイト生ではなく、あの日は友達の代理だったそうだけど。
その神原さんの手を、あたしは嫌だと思った。そのことに気がついて、あたしは赤面する。
「え、神原さん? どうしたの?」
「渋沢さんの幼なじみ、栗原くん? 彼に電話もらって、車かバイクがあったら迎えに来てやってって」
あたしの携帯電話から連絡したのだと容易に知れた。そしていまはきっと、勝輝ちゃんの携帯にも番号が登録されているはずだ。そういうところ、勝輝ちゃんは抜け目ない。
「今日、休みで良かったよ」
あんなに聞きたかった神原さんの声なのに、あたしは上の空だ。そんなことどうだっていい。
なんで、勝輝ちゃん。ずっと手を握っててくれないの。
なんで神原さんなんて呼んじゃうの。
熱で弱った所為なのか。
なぜだか、泣きたくなった。