気持ちのカケラ。
side Katsuki
本鈴ぎりぎりで、想は教室に駆け込んできた。第一声が、
「カツキちゃん、クッキー作ってぇえ!」
急いだ所為でくしゃくしゃになった髪と上気した頬で、想は俺の知らない男のことを考えている。
「それ、自転車の男、関係ある?」
「う、見てたの?」
うん、と俺は答えた。窓から、自転車に乗った想と知らない男が見えたのだ。
また悪い癖が出たな、と思った。想は惚れっぽい。ただし熱意が冷めるのも早いので、手作りお菓子のひとつやふたつ渡すと関心がなくなってしまうことも多い。
それはいいが、いつもお菓子作りの話が俺のところにくる。なんで他の男のために俺がお菓子を作らなきゃならんのだ、と思いつつ、いつも手伝ってしまう。なにしろ想は不器用で不器用で、そばで見ていないとなにをやらかすか心配でならない。
今回も早く熱が冷めるといいのだけれど。
「想、足どうかしたのか? まさかその足で走ってきたのか」
俺は、真新しいガーゼと湿布の張られた想の足を見て、眉を顰めた。
「大丈夫、ケンケンしてきたからっ!」
想はVサインをしてみせた。
変な根性だけはある。そんな想が俺は可愛くて仕方がない。