聞いてみたい。

否定の言葉

 聡が風邪をひいてから、やたらと美幸がまとわりつくようになった。聡は、面倒くさそうに相手をする。喉が痛いので、しゃべるのが億劫なのだ。
「聡先輩、今日はもう解散にしましょうよ」
 放課後が始まって早々に、美幸がそう言った。
「しない」と聡は素っ気無く答える。
「じゃあ、お菓子でも買いに行きましょう」
「行かない」
「チヨくん呼んでもいいですか」
「呼ぶな。……なにがしたいんだ、おまえは」
 美幸は不満げな顔をする。単に、「あかん」と言わせたいだけである。風邪で掠れた聡の声が大変好みなので、ひとこと聞いてみたかったのだ。
 ふと思いついて、美幸は言ってみた。
「今日、一緒に帰りませんか?」
 最近生徒会の方が忙しく、聡は今日は遅くまで残ろうかと考えている。それを、美幸は見越していた。
「……ええよ」
 答えた聡の声に、否定の言葉を聞くよりも美幸はどきどきした。


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2005 11 27