有り無し境界線。

問い詰める

「ひよりを家に泊めたんだって?」
「……あいつ、お前には何でも話すんだな」
 初っ端から喧嘩腰の詩穂に、志郎はうんざりした顔を返す。緩衝材となるひよりは、今日は日直だとかで少々遅れてくるらしい。
「まさか、手ぇ出したんじゃないでしょうね」
 ゴホッ、と志郎はむせた。保健室に勝手に持ち込んだコーヒーメーカーから注いだコーヒーを、ひと口啜って咽喉を整える。
「……あのな。未成年に手を出すのは犯罪です」
 疑わしげな詩穂に、とりあえず志郎は答えてやる。声に出すと気分が落ち着いてきて、志郎はカップに入ったコーヒーをゆっくり飲み干した。
「下手すると、連れ出しただけでも略取の罪だ。俺はあいつに無理やり何かをする気はないし、犯罪者になるつもりもない」
「……そう、ですか。すみません」
 詩穂はなんとか納得したらしい。殊勝に詫びを口にした。少々志郎にはからい詩穂だが、ひよりのためかと思うと志郎はそこまで腹は立たなかった。
「先生、汚い恰好してたのはひよりのためですか」
 話題が飛んだ。詩穂の疑問に、はん、と志郎は鼻で笑う。
「なんでだよ。あれは大学のときに無精してな、人が寄ってこない方が楽なのに気づいて味占めただけだ」
「でも改めなかったのは、ひよりが先生と仲良くしてても変な嫉妬受けなくて済むからなんでしょ? 最近小奇麗にしてるのは、ひよりがその方がいいって言ったからなんじゃないですか」
「……答えねえぞ、めんどくせえから」
 なにをそんなに突っかかってくるのやら、と志郎は気づかれない程度に嘆息して、ドアの方へ目をやった。
「しろちゃんー、詩穂ちゃんと仲良くしてた?」
 話が一段落したタイミングで、当のひよりがやってきた。志郎は、コーヒーメーカーや備品を置いてある棚に半分腰を預けながら、両腕を開いてひよりを呼ぶ。
「めんどくせえのと話して疲れた。ひよ、こっち来て癒してくれ。ちゅーしてくれてもいいぞ」
―― ちょ、あんた、さっきと言ってることが違う!」
 志郎へと駆け寄ろうとするひよりをとどめながら、詩穂は憤慨して志郎に咆えた。
「なんだよ、キスまではいいだろ」
「いいわけあるかああああ!!
 結局、志郎と詩穂が仲良くなることは難しいようである。


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2012 01 20