要説教。

渡り廊下にて

「なあ、頼むって」
 ひよりはクラスメイトの男子に懇願されていた。
「でも先月も代わったけど、結局返してもらってないよ」
 他をあたってくれと何度か言うと、最終的に男子は諦めた。掃除当番を代わってくれと頼まれたのだが、彼はルーズな所為で評判が悪く、最近頼みを断られることが多いらしい。
「……珍しいな、断ったのか」
 声を掛けられて振り向くと、志郎が通りがかったところだった。志郎は常々、ひよりは騙されたり言いくるめられたりしやすい性格なのではないかと思っている。
「お前は、俺のときはなんにも言わないからなあ」
「だって、嫌じゃないもん」
 断らないのは、嫌じゃないから。車に乗るのも頭を撫でられるのも何か食べさせられるのも自動販売機の前でおごれと言われるのも、膝に乗せられるのも。
「しろちゃんにされることは全部、嫌じゃないもん」
 顔を覗き込むようにそろっと見上げてひよりが言うと、
「……それもどうかという気がする」
 結局、志郎に説教された。


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novel

2012 01 15