とんだ不意打ち。
いつもの部活日和だった。
練習中の晃が廊下を離れて階段口に向かうと、後ろから玖里が追いかけてきた。
「うさ先輩、ジュース買いに行くんですか? おれも行く!」
「くりちゃん、転ぶなよ」
玖里が追い付くのを待って、晃は階段を降り始める。
一階まで降りるとそのすぐ脇に、自動販売機が二台並べて置いてあるのだが、一歩先に歩いていて突然立ち止まった玖里に、ぶつかって晃の足が止まる。
「急に止まるなよ」
「しっ」
玖里は口元に人差し指を立てながら、もう片方の手で姿勢を低くするように促した。当の玖里もさっさと、階段の手摺に匹敵するほどの位置まで姿勢を低くしている。
訝しげに思いながらもそれに倣い、そばだてた晃の耳に、女生徒の会話が飛び込んできた。
涼子と深森である。玖里を仲立ちにして知り合った二人は、思考のベクトルが似ているらしく、意外にも気が合うのだ。
「うっ、もも先輩ずるい。あんなに深森ちゃんと親しげに!」
そういう自分はクラスメイトだろうが、努力しろよ、と晃は思わず突っ込みを入れてしまう。そのうちに、会話が剣呑な方向へと滑りだした。
「男子ってめんどくさいよね」
「あー、ですよね」
紙パックのジュースを飲み終えた深森は、それをゴミ箱へと投げ捨てた。
「なにかとちょっかいかけてきますよね。柴田くんなんてお節介だし」
「うさみは構われたがりだしすぐすねるし」呆れたように涼子は息を吐く。「そのくせ単純なのよね」
「あー、わかります! ちっちゃいことですぐ機嫌直ったりしますよねえ。根が素直というかひねりがないというか」
散々な言いっぷりに、隠れて聞いていた男子二人は軽くへこんだ。
このまま聞いていても落ち込むだけのような気がして、二人がそろそろと足を上の階へと戻しかけたとき、
「――でも、こっちのことをめんどくさいとは言わないのよね」
「あー、大人だなあ、って思いますよね。私なんて心狭いのに」
「ふところが深くてやんなっちゃうわ」
ねー、と女子二人は盛り上がっている。
「……うさ先輩、顔真っ赤ですよ」
「……うっせえ、くりちゃんだってだろ」
涼子がジュースのパックをゴミ箱へ投げ入れた音を合図に、男子二人は見つからないように逃げ出したのであった。
2009 12 12