いっせーのせ、で。

3人目のひと

 佳奈美は遠見さんと出入りしている交流掲示板で、三人目を見つけた。なんの三人目かといえば、同じ大学に通っている人である。
 メールで約束を取り付け、三人だけでささやかなオフ会を決定する。単に会うだけである。待ち合わせは、キャンパス内喫茶店裏の自動販売機前とした。
 講義を終えた佳奈美と遠見さんがそこに向かうと、待ち人らしき人がすでにいた。自動販売機で買える、紙コップ入りのコーヒーを飲んでいる。佳奈美はその、長身の青年に近寄った。
「えっと、santaさん? かなやんとトーミです」
 ちなみにsantaというのはハンドルである。佳奈美が話しかけると、青年は瞬きをして眉を上げた。
「本名は片桐かたぎりっていうねんけど。トーミちゃん?」
「ちょお、片桐くん、なんか勘違いしとるやろ」
 来た来た、と思いながら佳奈美はしかめっ面をする。そこでやっと、遠見さんが口を開いた。
「僕が遠見、彼女が佳奈美ちゃんやさかい」
 聞いた瞬間、片桐くんはげらげらと笑い出した。
「え、ほんま。みんなトーミさんが女やと思っとうから、人気やねんで。受けるなあ。それよか女の子で、かなやん、て。佳奈美ちゃん、それ、めちゃめちゃ大阪センスやん」
「なんやて、大阪でなにが悪いんや。片桐くん、ちょお、感じ悪いで」そんなら自分はどこやねん、と言って佳奈美の機嫌は急降下するが、片桐くんは笑いを収めない。
「いや、悪い。おれのダチのサトシってのが、大阪もん嫌いやねん、品がない、て。それ思い出した」おれは神戸やけどぉ、と言った片桐くんは、完全に佳奈美をからかっているようである。
「なんや、神戸もんはお高くとまっとるだけとちゃうんか」
「ふたりとも、その辺にしいひん?」
 割って入った遠見さんは、少し困った顔をしている。
「ていうか遠見さん、このくらいのじゃれ合い、普通ですやろ」
「いやいや佳奈美ちゃん、繊細そうな遠見くんにはきつそうやで」
 二人は瞬時に意気投合してしまった。とりあえずお茶でも、と三人は並んで歩き出す。
「それにしてもあんたら、なんでお互い敬語使てんの?」
 片桐くんの指摘に、佳奈美と遠見さんは顔を見合わせた。
「……やって、いつもお世話になっとるんやもん。急にタメ口せえ、て言われよってもなあ」
「佳奈美ちゃんが敬語使たはるのに、僕だけというわけにもいかへんし」
「なんやそれ。どうせ同い年やし、せーのでやめたらええやん」
 呆れたような片桐くんの言葉に、佳奈美は口元に指をあてた。
「そやなあ。ほな掛け声かけまっせー。……いっせーの」
 青空に声が響き渡った。
「せっ!」


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2006 01 17