プレゼントは保留のまま。

さんたのユウキ

「なあ、山田さん」
「なんでしょう片桐さん」
 呼びかけに答えると、奴は恨めしそうな目をして拗ねた。いい歳したでっかい男がそんな素振りをしても、ちっとも可愛くはない。
「ちょお、せっかく教えてんから、名前で呼んでえな」
「あら、私だって苗字で呼ばれていますのに、そんなことできませんわ」
 私は思いっきり妙な敬語で応じる。もちろん、わざとである。
「だから、名前教えたってもええやろ?」
「いやや」
 拒否の意を示すと、奴は憮然とする。
「彼女にもなってくれへんしい、おれのなにがそんな気に食わんの」
「そういうところ」
 ずばっと返すと、奴はぐっと詰まった。
 結局のところ、私と奴は彼氏彼女という関係にはなっていない。あの日の私は弱っていたのだ。おかげでふらふらとなびきかけたが、すぐに我に返った。
 しかし妙な縁で、とりあえず友達というラインには留まっている。
「意地っ張りやなあ。ほんまは教えたってもええと思っとうやろ」
 本音を言うと実はそうだ。しかし、奴のにまにま笑いの前には絶対に屈するまい、と思ってしまう。割と難儀な性格である。
「よし、おれが心の声を代弁したろか」
 奴はどんどん勝手に(自分の中で)話を進めてゆく。
「“勇気が欲しい”」
「は?」
 私はその口の形のまま、固まってしまった。耳の先までじわりと熱くなっていくのが自分でもわかる。やばい、しまった。
 奴は怪訝そうな顔をする。しかし聡い奴のことだから、すぐに気づくだろう。奴は躊躇いがちに口を開いた。
「もしかして、と思うねんけど」
「はい」うわあ、時間よ止まれ。
「……ユウキちゃん?」
「……はい」
 私の名は、由希ゆうきという。


あとがき
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2005 12 24