サンタは、プレゼントを貰えない?

サンタとさんた

 私はクリスマス限定のキューピッドだ。
「じゃあね、さんた! ありがとーっ」
「うるさい、とっとと行け!」
 満面の笑みで手を振る彼女に、私は叫び返した。
 彼女が見えなくなると、はあと息をついて私は肩を落とす。そこに、凍えるような雪がちらちらと積もってゆく。
 くっと喉の奥の笑いが聞こえて、私は顔を上げた。
 振り向くと、プラカードを持った、いかにもサンタ! というやつが宵闇とイルミネーションの混沌の中に立っていた。きっと、サンタの恰好をした自分の隣に、さんたと呼ばれた少女がいることがおかしかったのだろう。
「あ、悪い」
 睨む私に、でっかいサンタは謝った。口元を隠すが、まだにやにやしているだろうことは容易に想像できる。
「なんや、なにがおかしいん。私かて好きでさんたって呼ばれとうわけ……」
 ぼろっと涙が出た。
 さすがにサンタはぎょっとした。慌てて私の背を押して、少し静かなところにあるベンチに腰を下ろさせる。
 なにしてんやろなあ、と素直に従いながら私は思う。このサンタもなんやねん。
「よしよし」サンタは私の頭を撫でる。
「……なんでサンタはプレゼント貰えへんのかなあ」
 と変なひとことから、芋づる式に私は愚痴をこぼした。
 まずはあだ名の由来からだ。私は山田というのが本名だが、小学生の時分、いらんことを言ってしまった。
「富士山の山は、山田の山やねんで!」
 ……いまでは後悔している。
 私の周りではなぜか、クリスマス間際になるとトラブルを起こすカップルや両想いを目指す女子が急増する。その際、私が橋渡しすると成功する、というジンクスがまことしやかに囁かれている。そんなわけで毎年クリスマスに担ぎ出される私だが、笑えることに男の方は私の好きな人だった、というおまけつきだ。
 おかげで毎年、クリスマスは独り者である。
 サンタは、そうなんやあ、と言って天を仰いだ。
「じゃあ、おれが一日遅れのプレゼントをあげよか。明日、そこのケーキ屋さんに来て」とサンタは店を指差した。
 彼はそこのバイトさんらしい。サンタの扮装とプラカードは客引きなんだろう。
「あんたはきっと、おれを名前で呼ぶと思うねん。したら、おれが彼氏になったるわ」


 阿呆とちゃうか、と思った。
 とはいえ、暇であることには違いなかったので、翌日私はその店に向かった。
 お持ちかえりだけではなく、店で食べることもできるようで、奥に飲食スペースがあった。コートを脱ぎながら腰を下ろすと、タイミング良く奴が現れる。
「いらっしゃい、待っとってん。ほい、これ、当店のオススメや」
 と人の好みを聞きもしないで、(しかし美味しそうな)ケーキをテーブルに置いた。温かいカプチーノ付きで。
「もう一個ぐらい、食えるやろ? 好きなん頼み」
 そう言って、奴はメニューを見せた。少し屈んでメニューを開く際、胸のネームプレートが見える。片桐かたぎり、と書いてあった。
 昨日のセリフを思い出した。たぶん、本当のプレゼントはこのケーキで、あとは冗談だったんだろう。そうなると、意地でも奴の名前は呼びたくない。
「な、サンタさん、私レアチーズとショコラがいい」
 当てつけに、二個頼んでやった。食べきれないと思ったら、持って帰ればいいのである。
 すると奴は、にやっと笑った。
「言うたな」
「……なにを?」私はきょとんとする。
「教えたろか。おれの名前、三太さんたって言うねん」


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