その熱が私を捉える。

てのひら

 上級魔術はまだまだ奥が深い。
 私たちAの七班が作り上げた薬はとんでもない副作用があり、なおかつ(レポートのために)服用するまで誰もそれに気づかなかった。
 めまいと軽い嘔吐感があり、激しく体がだるくなる、らしい。
 いつもなら軌道修正してくれるはずのアインはルベリと別の作業中だったので、エルザと私で完成させてしまったのだ。
 そういうときは慎重になるアインも、私たちが「試しに服用したけど、なんともなかったよ」と言ったので信用してしまったとみえる。私たちも気づいてはいなかったのだ。
 ――その副作用が男性にだけ表れるものだとは。


「アイン、平気?」
 ノックと同時にドアを開け、私は見舞いに訪れた。
 このジークエン魔術学院は寮制度だ。中級までは共同の部屋も、上級生になると個室がもらえる。そんなわけで、いまこの部屋にいるのは私とアインの二人だけだ。
「……ああ」
 だるそうな声でベッドの中からアインは返事をする。立ち上がるとめまいが襲ってくるため、寝ているしかないらしい。
「えっと、ごめんね、馬鹿やっちゃって」
 私は素直に謝った。ベッドの縁に腰掛けると、少し眩しそうに目を細めたアインと視線がかち合った。
 ――もしかして、あんまり素直に謝るのも、アインにとって理解しがたいことなんだろうか。難儀な性格をしてるなあ、と思って、私の口は知らず緩んだ。
「いや。……ひとりか?」私の謝罪に答えて、アインは軽く息を吐く。
「どう見ても、ひとりだけど? だって、ルベリも寝込んじゃってるんだもん。エルザはそっちのお見舞いに行ってるし」
 そう言うと、ものすごく呆れ果てたような溜息が返ってきた。
「変な噂が立っても知らないからな」
「は? ――え、うわ、うそ」
「そうなってもおれは訂正しない」
 やっと、私は現状を把握した。その可能性を考えてもみなかった。そうだなあ、ここ、個室なんだよね。
 そうは思ったけれど、アインの返事に少しかちんときた。まあ、面倒なのはわかるけど、もう少し言い方ってものが。
「なんでよ、もう、誤解されてもいいの?」とむくれてみせると、
「あんたが、おれのものになるんだったら」
 ベッドから伸びた腕が私の手首をつかみ、その熱さに私は動けなくなった。


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2006 04 25