この眼差しからは、逃れられそうにない。

まなざし

 最近までずっと、私の関心ごとは別の人に向いていた。だから気づかなかった。
 ――アインが意外ともてるのだということに。
 背丈の割には細い体型とか、口の悪さなんてものはどうでもいいらしい。ただ、隣に並んでも恥ずかしくないほどの容姿と、なにか突出した才能があれば、それだけでもてる要因になるのだと私は知った。
 そうだなあ、アインはなんといっても学年主席だし。最近は雰囲気がちょっと柔らかくなったとかも言われてるらしいけど。
「ブラウ?」
 いつものように勉強を教わっていた私の意識がどこかに飛んでいることを察して、アインが訝しげに声をかけた。向かいに座っているアインの視線を確認して、私はかすかに微笑む。
「イヤ、アインさんはもてるんだなあと思いまして。で、どうなの? 最近言い寄る子が増えたっていうじゃん。お気に入りとかできまして?」
 勉強そっちのけで身を乗り出す私に、アインは眉根を寄せた。
 と、強い眼差しが私の視線を絡めとる。
「……言わなかったっけ? おれ、あんたを忘れたことなんてなかったんだけど」
 それにおれ、あんたがおれを利用してても良かったんだけど、とまでアインは言ってのけた。
 私は瞬時に真っ赤になった。余計なことは言わない男にストレートな話題を振ったことを後悔した。
 このどきどきは、しばらくやみそうにない。


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novel

2005 11 12