気持ちが始まる。

side Luli

ここから始まる

 学校の玄関先で、雨が降るのを見ていた。私はまた傘を忘れた。
 でも今日は小雨だからいいかな。えいやと足を踏み出して、私は自分が濡れていないことを知る。
 振り向くと、いつかのように葛見くんが傘を差し掛けていた。
「あ、ありがと」驚いた私は少し声がうわずってしまう。
 いや、と低い声が答える。ややあって、私たちは歩き出した。
「悪い、避けてたりして」葛見くんが言う。
「ううん」私は答える。
 なんで。なんで葛見くんが謝ってるの。
 もしかして、私と同じだったのかな。会いたいけど会いたくなかったのかな。会いたいと思ってくれたのなら嬉しい、と思った。
 それよりも。
 うわあ、どうしよう、と思った。
 葛見くんだ。久しぶりの葛見くんだ。私の隣にいる。
 傘の下という空間の中で、ふたりきり。腕が触れ合いそうなくらい近くにいて。
 そして私はどきどきした。
「……うわあ、どうしよう」
 小さな声で私は呟いた。
「え?」
 葛見くんがそれを聞きとがめる。
 私はこっそり深呼吸をして、そして傘を握る大きな掌に手を伸ばす。
 指先から熱が伝わった。


あとがき
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2005 11 03