あんたって最高。

side Soh

屋上と誘惑

 言っておきたいことがある、と葛見に呼び出された。なんなんだ。
 さっさとお昼ご飯を食べてしまったあたしは、早々に屋上のコンクリートに座り込んでいる。扉からは見えない、壁になっているところに背をもたれさせて。
 ぎゃあぎゃあと複数の女子の声が聞こえた。だんだん近づいてくる。階段を上っているらしい。そして、屋上に続く扉が開いた。
 こっそり覗きこんだあたしは、あっと声を上げそうになった。
 ひとりめの女の子は、こないだ勝輝ちゃんが見てたミズシマさん、だった。さらさらの髪が風にあおられてなびいている。
 そして、後ろから二、三人の女子たちがすごく怒ったような顔で現れた。見覚えのある顔だ。彼女たちは葛見に付きまとってる女の子たち。じゃなかったかな。
 あたしはなんとなく、ミズシマさんと葛見と勝輝ちゃんの関係を理解した。
「ねえあんた、水嶋瑠璃。いい加減にしてよ」
「葛見くんに付きまとってるんでしょ」
 彼女たちはかしましく騒ぎ出した。うわ、始まってしまった。実は結構、こういう展開は珍しい。葛見はなんといっても来るもの拒まず去るもの追わずなたちだから。ってことは、最近女に興味がなくなったか、それともよっぽどあの子にご執心かのどっちか。どっちにしたって珍しいけど。
 あの子、瑠璃ちゃんっていうのか。
 のんびりとあたしは思った。こんなときだっていうのに。でもなんだか、彼女は大丈夫そうに見えたのだ。だからあたしは出て行かない。
「葛見くんを誘惑したんでしょ」
 うわ。きわどいセリフ。失礼だけど、どう見たって瑠璃ちゃんはそういう意味で誘惑できる容姿を持っていない。しかしあたしは彼女の返事に目を丸くした。
「うん」
 彼女たちは絶句。あたしも絶句だ。
「あのね、こないだ喫茶店に行ったのね。それでケーキを食べたんだけど、葛見くんは食べないの。ほんとは甘党みたいなんだけど、男の子がそういうの、かっこ悪いと思ってるみたいなのね。だから、はいって一口あげたら、すごく迷ってから結局食べたの。やっぱり甘いものの誘惑には勝てないよねえ」
 にこにこ笑って彼女は言いきった。瑠璃ちゃんって最高。そりゃ、好きな子からいきなりはいあーんってされたら、めちゃめちゃ戸惑うでしょ。あたしはもう、ひーひー笑っていた。お腹が痛い。
 おかげであたしは見つかってしまったが、いちゃもんをつけていた女の子たちはぱっと顔を赤らめて去っていった。どっちにしろ、さっきの瑠璃ちゃんのセリフで毒気を抜かれてしまったみたいだけど。
 取り残された瑠璃ちゃんと目が合った。彼女はぱっと花の咲くような笑顔を見せて、それからばいばいって手を振って出ていった。
 あたしはちょっと見惚れた。
 うん、あの笑顔なら虜にされるのもわかる。


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