おまえは犬か。
side Katsuki
その日は雨だった。
靴箱のある玄関先で、ボケっと空を見てる少女が一人。友人の諒が最近――一方的に――仲良くなった子、水嶋瑠璃だ。
そこは屋根があるので濡れる気遣いはないが、既に屋外のため床は濡れている。今日の気候はひんやりとして、セーラー服の半袖が寒そうに見える。人待ちの様子でもなく、たぶん傘を忘れたんだろう。
水嶋は意外と変な子だ。
このあいだはプールに落ちた。
たぶん傘なんて、朝降らなかったら持ってこないのだろう。
入れていってやろうか、と思った。そのとき俺は、傘をさして門のほうに向かって歩き出している途中だった。忘れ物をしたと勘違いしかけて、玄関のほうを振り返ったら水嶋がいたのだ。
一歩踏み出しかけたとき、諒が来るのが見えた。
大柄な体で、水嶋の傍にささっと侍る。
体格に似て大きな傘を指差して、彼女に入れと言っているらしい。
彼女がこっくり肯いて傘に入ると、諒はとろけそうな笑みを浮かべた。
ぶっ。
柄にも無く吹き出して、俺は口に手を当てた。だらしない顔してんなよ。
そのとき、諒が俺に気づいてぎょっとした顔をした。
思わず見返すと、鬼のような形相で睨んだので、慌てて退散した。
あんにゃろう。言いふらしてやる。
――とは思えないのが俺の良いところだ。我ながら。