飲酒禁止令。

酒は飲んでも呑まれるな

-----A-side

「二人は、お酒飲んだりはしないの?」
 オーレリアンが、カレンとルゥエを見やった。
 三人は昼下がりのティータイムに興じている。そのとき、ふと出た話題だった。
「私は、ヒースとかティオのご相伴にあずかったりするけどねえ」さらりと姫が言えば、
「お酒って十八からでしたよね……私はまだ飲めません」と司書官が答える。
 で、カレンは? と二人はこちらを振り向いた。
「ええっと、私は、グリフ様に止められてるんです」
 ためらいがちに答えたカレンに、目の前の二人はきょとんとした。

-----B-side

「え、先輩、カレンさんにお酒禁止してるんですか? なんでまた」
 意外そうな声を上げたティオに、グリフォードは、ふ、と溜息を洩らした。
「カレンが飲酒するときがあるとすれば、私も飲んでいると思うが」
 ふんふんとティオは頷いた。確かに、カレンが酒を飲む機会があるとすれば、グリフォードに付き合って飲む、というぐらいのシチュエーションしか思い浮かばない。
「酔った彼女になにをするか、もしくは酔った自分がなにをするか考えると恐ろしい」
「せ、先輩、なんと繊細な。別に襲っちゃってもいいでしょうに、奥さんなんだから」
「……いかに妻相手といえど、節度のある振る舞いをするべきだと思うが」
 とグリフォードは恨めしそうな目を――ティオには殺気に満ちた目にしか見えなかったが――静かに向けた。
「……この話、ヒースとレオにはするなよ」
 俗に<『ド』の付く三人組>と呼ばれる彼ら同期三人組の間には、微妙なパワーゲームが存在している。我が強く人の上に立ちたがるヒースケイドとレオナルド、そこまでの思いはないが自分だけ一人負けするのは面白くないグリフォード、その間の天秤のバランスは常に微妙である。
 彼らに弱みを握られるわけにはいかない。どんな些細なことから突かれるかわからないのである。
 先輩も大変ですね、とティオは小さく溜息をついたが、心の情報ノートにはしっかりとメモをしたのだった。


novel

2008 10 13