永遠が、欲しい。

永遠に届くまで

 永遠なんて、ない。
 物心つく前に親に捨てられ、二親を亡くした義理の兄ちゃんたちを見て育った所為か、私はその思いに支配されている。
 だからかもしれない。私が刹那的に生きてきたのは。
 三人の兄ちゃんたちはそのことをわかっているのか、いつも私に優しかった。なんでも聞いてくれたし、なんでも買ってくれた。私が欲しがるのはいつもお菓子や花、跡には残らないものばかりだ。いつかなくなってしまうのなら、すぐに消えてしまうものの方がいい。
 「欲しい」と口にするたびに、私はその言葉にもっと切実な「欲しい」の思いを乗せていた。ずっと傍にいて欲しい。私を見て欲しい。置いていかないで欲しい。でも私は、それを口にすることができなかった。どうせ永遠なんてない、言えばなにかが壊れてしまう。
 永遠を期待するのは恐ろしいことだ。
 兄ちゃんたちが私をでろでろに溺愛していても、お祖父ちゃんがいる間はそれで釣り合いが取れていた。均衡が崩れたのは、お祖父ちゃんが亡くなってからだ。
 私は兄ちゃんたちが大好きだし、彼らが優しいのはとても嬉しいことだけど、それはたまに昏い感情を呼び起こす。「私は可哀想な子なんかじゃない、だから甘やかしたりしないで」と叫びたくて気が狂いそうになるときがある。
 どうしたらいいのかわからなくて、とにかくもいちばん過保護なつぐ兄から逃げ回っていた頃、出会ったのが翠晶だった。
 翠晶は、決して私を甘やかさなかった。
 客観的に見ると、どちらかといえば甘やかしているのかもしれないけど、それは翠晶が私を甘やかしているからじゃなくて、単に彼の性格が甘いだけだ。
 翠晶にビシッと叱られると(たとえそれが悪態であっても)、お祖父ちゃんの再来だ! と変な感動をしてしまう。翠晶に叱られたいがために、彼に対する我侭がどんどんエスカレートしていくのは我ながらどうかと思うけど。
 そんなわけで私は翠晶を崇拝している。ただし、そんなことを言えば翠晶が私のことを重荷に感じるのは目に見えているので、一生言うつもりはない。
 でもたまに、こうは言いたくなる。
 「ずっと一緒にいて」と。
 永遠を望んでみたいと思う。たとえ叶わなくてもいい。
 だけど、もう少しで、手が届きそうな気がしている。


novel

2006 08 16