始める前から負けているのかもしれない。

隠れ鬼の真意

 スモモが突然、こんなことを言い出した。
「かくれんぼしようっ」
 かくれんぼとはなんぞや、と尋ねてみると、嬉しそうに答えが返ってきた。<鬼>と呼ばれる役割をふられた者以外が姿を隠し、鬼がそれを見つける、全員見つければ鬼の勝ち、というしごく単純なゲームのようだ。
 子供の児戯に付き合うなど面倒だ、という思いがちらと脳裏をかすめたが、スモモがあまりにも期待に満ちた目で見るのでつい乗ってしまった。リキとシュラも同じような理由で釣られてしまったらしい。
 調子が狂う。スモモのように懐いてくる子供など初めてで、もちろん相手が娘だろうと獣だろうとそのような経験はなかった。甘えられるということに免疫がなさすぎて、おれたちはスモモを拒絶することなど到底できないでいる。スモモに『傾国の美女』という話を教えてもらったが、空恐ろしくなった。一歩間違えればおれたちも危ない、かもしれない。
 それを裏付けるのが、このかくれんぼの逸話なのである。
 スモモがなんの能力もないただの小娘だということをうっかり失念していたおれたちは、鬼役のスモモに対して文字通り姿を隠してしまった。魔の力を持つおれたちには造作もないことで、空間の隙間を歪めてそこに姿を隠すのだが、無論、スモモがそれを発見できるわけはなかったのだ。
 その辺の机の下や戸棚に隠れた小鬼や魔獣を次々と見つけ出していたスモモは次第に焦りを見せ始めた。おれたち三人が、一人も見つからなかったからである。そのうち本当に、おれたちがどこかへ行ってしまったのだと疑いだしたらしい。
 泣きそうに顔を歪めて、心細げにおれたちの名を呼び始めた。
「シュラー? リキー?」
 母とはぐれた子のようにうろうろと歩き回る様に、シュラは根負けしたらしい。瞬く間に姿を現し、スモモが勝利の気分に浸れるように、わざわざ見つかりやすいところに隠れなおす。ほどなくしてスモモがシュラを発見し、歓声を上げた。
 このころにはリキも薄々感づいていただろう。そう、つまるところこれは、忍耐力を試すゲームなのである。
 スモモをとるかプライドをとるかの話だ。そしてシュラはあっさり情に負けた。
 スモモはよほど心細かったらしい。
「良かったー! みんな、どっかへ行っちゃったのかと思った!」
 そう言って、シュラに抱きついたのだ。そうしてリキもあっさり投降した。シュラにスモモを独り占めされてしまったからである。
 その後の展開は、火を見るよりも明らかだと思うのでここには記さない。


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2008 02 16