興味深い。

朱鷺色の

 もともと君島にたいした興味は持っていなかった。
 それは特に君島がどうこうというわけではなく、おれが他人にあまり関心がない所為だ。
 とはいえ、友人もそれなりにはいるし家族に対してなんらの感情も抱いていないというわけではないから、好きとか嫌いとか友達だとか恋人だとか、そういうラベル付けに興味が持てないと言ったほうが正確かもしれない。
 おれにとって君島は、ただ、負けず嫌いでやかましいというだけの女だった。
 ずけずけと物を言う君島、冷たくされてもへこたれない君島。
 おれは、君島は特別な奴なんだとどこかで思っていたのかもしれない。だから、失恋した君島に八つ当たりされたとき、軽い失望を覚えた。
 君島は、恋愛感情ごときに翻弄される、ただの女なんだと。
 そう思って拍子抜けした途端、じわじわと別の感情がおれを支配した。
 君島は特別なんかじゃなかった。強くなんかなかった。恋に破れて枕を泣き濡らすような、普通の。
 普通の女の子だ。
 そしておれは、初めて本当に君島に興味を覚えた。
 この気丈さは、打たれ強さはどこから沸いて出るのかと。


 あの君島が、恋愛にだけはからっきし弱い。
 そのことを面白おかしく感じていたが、まさかその対象が自分に向くとは思ってもみなかった。たまにじっとおれを凝視していたり、目が合うと逸らしたり、ときにつっけんどんな態度になったり、そんなことはみんな、おれを嫌っているからだと思っていた。
 失恋の一件以来、君島の態度が少しだけ刺々しくなくなった。だから、嫌悪されているというほどに強い感情を持たれているとは思わなくなった。でも、おれはお世辞にも好かれやすい性格をしているとは言えないし、別にそれを苦にも思っていない。だからまあ、反発しているというか腐れ縁というか、その程度に捉えられているのだと思っていた。
 それなのに、先日、まさかの告白を受けた。
「キミジマ」
 名を呼ぶと、目の前に座っている君島は黙ってうつむいた。
 空いた講義室で、おれたちは机を挟んで向かい合っている。
 朱鷺子とはよくも名づけたものだ。頬が、ほんのりとした薄紅色にみるみる染まる。
 本当に、おれなんかのどこがいいのか理解しがたい。
 やわらかい頬にそっとおれの手を寄せると、君島はその紅色をますます濃くしながら黙ってされるがままになっていた。
 好かれていると知った気分は、まんざらでもない。でも、おれは活きのいい君島が好きだ。いくらおれのことが好きでも、緊張して動けなくなっている君島は少しつまらない。
 おれはゆっくりと顔を寄せて、君島の真っ赤になっている耳をかぷりと噛んだ。
――な、なにすんのよ、馬鹿っ!」
 おれの顔を慌てて押しのけた君島の、見事な平手打ちがすかさず飛んできた。予想はしていたので無論避けたが、その瞬間君島の顔に、しまったという狼狽のいろがありありと浮かぶ。
 おれは、咽喉の奥から込み上げてくる笑いを堪えきれなかった。
 ――やっぱり、君島はこうでなきゃな。


novel

2007 10 17